今回のコラボ書評は乗代雄介さんの『皆のあらばしり』を取り上げます。
毎月連載のコラボ書評
このブログでは、ブログ「坂本、脱藩中。」のさかもとみきさんと毎月コラボしている書評を書いています。
前回のコラボ書評は逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』でした。
【コラボ書評】独ソ戦を戦う女狙撃手:逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』 – つぶログ書店
同士少女よ敵を撃て(逢坂冬馬)戦争がどう人間を変えるかが書かれている | 坂本、脱藩中。
コラボ書評とは2人のブロガーが同じ本を読み、感想をお互いに書くという内容です。
ぼくはさかもとさんにいろいろ相談をしたり、Twitterで交流をしていました。話の流れで「コラボしたいね」という流れになり、お互いに本好きということもあり書評を書きあうというスタイルになりました。
面白いのは同じ本を読み合っていても、人によってこうも感想が違うのかという点がわかる点です。
特にこのコラボ書評は、男女で本の捉え方が違う点も面白い点だと思います。
- 過去のコラボ書評はこちらから。
毎月連載のコラボ書評まとめ【つぶあんとさかもとみきさんの書評】 | つぶログ書店

今回の本は乗代雄介著『皆のあらばしり』

今回のコラボ書評の課題本は乗代雄介さんの『皆のあらばしり』です。
今回はさかもとさんが本を選んでくれました。
『皆のあらばしり』のあらすじはこちら。
幻の書の新発見か、それとも偽書か――。高校の歴史研究部活動で城址を訪れたぼくは中年男に出会う。人を喰った大阪弁とは裏腹な深い学識で、男は旧家の好事家が蔵書目録に残した「謎の本」の存在を追い始めた。うさん臭さに警戒しつつも、ぼくは男の博識に惹かれていく。ラストの逆転劇が光る、良質のミステリのような注目作。
乗代雄介 『皆のあらばしり』 | 新潮社
惜しくも受賞はならなかったですが、第166回芥川賞候補作。
この本を読んで感じたこと
本作の舞台は栃木県皆川地区。
実際の歴史研究部の活動がもとになっているそうで、本作が芥川賞の候補作入りしたときには地元新聞で記事も出ています。
明治期の地誌の下書きが残っているのは、市内では皆川地区のみ。地誌の内容をそのまま活字化して刊行する「翻刻」を地元高校生が行っていると知り、「数世代にわたって研究に取り組んでいることにロマンを感じ、地誌を読み解く過程に興味を持った」と高校生を主人公にした。
市 乗代雄介さんの「皆のあらばしり」 学悠館高研究がヒント|地域の話題,県内主要|下野新聞「SOON」ニュース|下野新聞 SOON(スーン)
ぼくはもともと歴史が好きで図書館でよく歴史系の本を借りて読んでいます。
最近地元の歴史に興味も出てきました。
そのため実際の研究自体はしていないものの、この作品のテーマとなっている“歴史研究”には少しなじみがありました。
地域の歴史の中で埋もれていた『皆のあらばしり』なる書物が物語のキーになるという展開。
この書物をめぐる高校生の浮田と中年男の虚と実を織り交ぜたやり取りが本作の鍵となります。
作中のぼく(浮田)と中年の男の関係は北野武監督の「キッズ・リターン」の安藤政信とモロ師岡の関係をちょっとイメージしました。
だんだん外堀を埋めてそうせざるをえないような関係に持ち込んでいくようなイメージです。
物語の結末はあるセリフをもとに「え!」という展開になり、ここがあらすじでもミステリと紹介されている部分になるのでしょう。
ラストを読み終わったときには一度では意味がわからず、何度か読み直して区切りをつけました。
とはいえ、明確にきちんと決着をつける、伏線を説明するような感じではありません。
純文学の賞である芥川賞の候補作になったことからもわかるように、ミステリ的味付けはありつつもテーマや表現のほうに重きが置かれている印象です。
歴史的な謎の面白さと二人のやりとりでサクッと読むことができます。
まとめ
読み終わって不思議な印象を残す作品でした。
文学作品としての表現だけを突き詰めた作品ではないので、物語としても楽しめました。
ぜひ読んでみてください。
毎月連載のコラボ書評まとめ【つぶあんとさかもとみきさんの書評】 | つぶログ書店
さかもとさんの書評はこちらから
この作品をさかもとさんはどう読んだのでしょう。
書評はこちらから。
皆のあらばしり(乗代雄介)さらっと読めるのにセリフが刺さる! | 坂本、脱藩中。