『火花』で芥川賞を受賞したピース又吉直樹さん初の新書が刊行されました。この本、Twitterでその存在を知って早く読みたいと思っていました。きょう映画の帰りに近所の本屋に立ち寄ったところ、新書コーナーに陳列されていました。又吉さんのエッセイは『第2図書係補佐』が有名ですが、新書で本についてどんなことを書いているのか興味を持ちながら読んでみました。
本は僕に必要なものでした
又吉さんは中学の教科書で芥川龍之介の「トロッコ」に出会いました。
この作品を読んだ時、自分と同じくらい頭の中でしゃべっている人がいるということに驚いたそうです。
又吉さんにとって本はファッションと同じく刺激的でドキドキさせてくれるものでした。
自分の異常と思われる部分や欠陥が小説として言語化されていることが嬉しかったそうです。
少年時代に本に出会うということはとても大きなことです。
又吉さんの場合、文学と出会い、救われたり、共感したりする部分があったのではないでしょうか。
又吉さんが読んだ作家たちは悩みに悩んでその作品を世に出したと思います。
この章を読んだ時、The Whoのピート・タウンゼントの言葉を思い出しました。
ロックンロールは、別に俺たちを苦悩から解放してもくれないし逃避させてもくれない。 ただ、悩んだまま躍らせるんだ。
本の一番おもしろいところは感覚の確認
又吉さんの感じる本の一番おもしろいところは感覚の確認、つまり共感です。
自分の中だけだと思っていた感覚、感情が書かれているものに共感するということです。
近代文学が好きだという又吉さん。
日本の近代文学は私小説も多く、自分と向き合った作品が多い印象です。
ぼくは友達が多くないので、本を読んでいる時間が長かったのですが、たしかに小説を読んでいると自分の感情が言い当てられたような、なんでそれ知っているのという感覚に陥ることがあります。
何度も読めるのが本のいい所だと語る又吉さん。
できるだけ自分の価値観で本を読むことをすすめています。
いつ読んでも違う味がする、それが読書の魅力だと書かれています。
太宰が好きです
又吉さんは太宰治が好きなことでも有名です。
この本の中でも1章を割いて太宰について書いています。
太宰治は有名です。有名であるがゆえに、太宰が好きといいにくい空気があります。
又吉さんはいろいろな人に太宰をすすめているそう。
それは太宰がキャッチーでありながら、ハッと立ち止まって考えさせられるような表現もあり、読んだ後にどう思うが読者の自由という読み方が許されている作家だからです。
個人的にもこれには納得です。
ぼくには太宰治を集中的に読んでいた時期がありましたが、読んでいて時代を感じることはありませんでした。
もちろん、テーマや表現など発表された時代のものもありますが、文体が現代の小説を読み慣れている身からも違和感がありませんでした。
又吉さんも中学のときに読んだと書いていますし、時代を越えて読み継がれている点からも優れた作家であることがわかります。
以前に太宰治の小説の記事を書きましたが、この本にもおすすめの太宰治の作品が出てきます。
まとめ
今回はかなりポイントをしぼって感想を書いてみました。
この本には又吉さんの子ども時代のこと、芸人として上京した時のこと、そして『火花』創作秘話など面白いところがたくさんあります。
もちろん、本を読むことについても。
そして、後半には又吉さんの愛する作品の解説が書いてあります。
この本はかなり自分の心情を書いている印象で、個人的には共感できるところが多かったです。
芸人・作家としての又吉さんのファンだという人はもちろんですが、本好きの人も楽しんで読めるのではないでしょうか。
おすすめです。新書なのも読みやすくていいですね。