すべての大人たちのはざまで:山田詠美『つみびと』

書評

今回のコラボ書評は山田詠美さんの『つみびと』がテーマです。

毎月連載のコラボ書評

このブログでは、ブログ「坂本、脱藩中。」のさかもとみきさんと毎月コラボしている書評を書いています。

前回のコラボ書評は『存在の耐えられない軽さ』でした。

コラボ書評とは2人のブロガーが同じ本を読み、感想をお互いに書くという内容です。

ぼくはさかもとさんにいろいろ相談をしたり、Twitterで交流をしていました。話の流れで「コラボしたいね」という流れになり、お互いに本好きということもあり書評を書きあうというスタイルになりました。

面白いのは同じ本を読み合っていても、人によってこうも感想が違うのかという点がわかる点です。

特にこのコラボ書評は、男女で本の捉え方が違う点も面白い点だと思います。

  • 過去のコラボ書評はこちらから。

毎月連載のコラボ書評まとめ【つぶあんとさかもとみきさんの書評】 | つぶログ

コラボ書評
毎月連載さかもとみきさんとのコラボ書評!

今回の本は山田詠美『つみびと』

つみびと 山田詠美 eimi yamada

今回本を選んでくれたのはさかもとさんです。

本は山田詠美さんの『つみびと』です。

『つみびと』のあらすじはこちら。

灼熱の夏、彼女はなぜ幼な子二人を置き去りにしたのか。追い詰められた母親、死に行く子供たち。小説でしか描けない〈現実〉がある――虐げられる者たちの心理に深く分け入る迫真の衝撃作。

つみびと|特設ページ|中央公論新社

山田詠美さんが作家生活の中ではじめて実際の事件を元にして作品を執筆したものです。

本書を読んでの感想

この本は事件を起こした蓮音とその母親の琴音の過去の物語が同時に進んでいく形式になっています。

そして間に蓮音の子ども、桃太と萌音のエピソードが入っています。

この本のもとになった事件は有名なので流れを知っている人もいるかもしれません。

まず単純に誰かが助けられなかったのだろうか、と思うと同時に自分だったら助けられるのだろうかとも考えました。

そして気づいたのは、この小説はある意味で、その重大な結果の「前」と「後」を書いている小説ではないかということです。

琴音と蓮音の親子が重ねてきた人生は重く、辛いものでもあります。人はあまりにも重ねて事実を突きつけられると人は考えるのをやめるのかもしれません。

自分はどうなのかと読者に問う小説

ぼくは割と人を“性善説”で見るようにしています。自分の中だけの基準なんですが、それがこの物語の中で蓮音の夫だった、音吉にすごくかぶるんですよね。

自分が家族を追い込む側の人間になってしまうのではないかという不安です。

大好きな人でも怒ってしまったり、ケンカしたりということは絶対にあります。でも、その先の“感情”まで自分が流れていってしまうのではないかということにすごく恐怖を感じました。

この本とまったく同じ家庭環境の人はいないでしょう。ただ一歩道を踏み外せば蓮音になっていたのは自分だったかもしれないという「考え」は読み終わったあと自分の中で重く残っています。

ぼくは現在独身ですが、将来家庭を持つことになったときにやっていくことができるのだろうかという不安になります。

あとがき

最後に少しだけ考えたことを。

本書のタイトルは「つみびと」ですが、これって「つみ+ひと」なんでしょうか。それとも琴音と蓮音のことなんでしょうか。彼女たちを助けられなかった人たちのことなんでしょうか。

そのことを読み終わった今も考え続けています。

さかもとみきさんの書評

さかもとみきさんの書評はこちらからどうぞ!この作品をさかもとさんがどう読んだのかすごく気になります。

今回紹介した本

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