今回のコラボ書評では川端康成『眠れる美女』を取り上げます。
毎月連載のコラボ書評
このブログでは、ブログ「坂本、脱藩中。」のさかもとみきさんと毎月コラボしている書評を書いています。
前回のコラボ書評は絲山秋子さんの『夢も見ずに眠った』です。
- 【コラボ書評】愛おしさと切なさ『夢も見ずに眠った』【絲山秋子】 | つぶログ書店
結婚が終わりをむかえるときとその後。男と女は何を感じ、どう生きていくのか「夢も見ずに眠った。」絲山秋子 | 坂本、脱藩中。
コラボ書評とは2人のブロガーが同じ本を読み、感想をお互いに書くという内容です。
ぼくはさかもとさんにいろいろ相談をしたり、Twitterで交流をしていました。話の流れで「コラボしたいね」という流れになり、お互いに本好きということもあり書評を書きあうというスタイルになりました。
面白いのは同じ本を読み合っていても、人によってこうも感想が違うのかという点がわかる点です。
特にこのコラボ書評は、男女で本の捉え方が違う点も面白い点だと思います。
- 過去のコラボ書評はこちらから。
毎月連載のコラボ書評まとめ【つぶあんとさかもとみきさんの書評】 | つぶログ

毎月連載さかもとみきさんとのコラボ書評!
今回のコラボ本は川端康成『眠れる美女』
今回の本のチョイスは私、つぶあんです。
本は文豪川端康成の『眠れる美女』です。

『眠れる美女』のあらすじ
本作はかなり特殊な設定です。ある家に老人たちがやってくるのですが、
「この家には 、もう女を女としてあつかえぬ老人どもが来る」
家なのです。
その家でいったい何をするのか。
それは、眠らされた少女と1晩過ごす。ただ眠るだけ。これだけです。
触ることはできてもそれ以上のことはできません。
波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館であった。真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女――その傍らで一夜を過す老人の眼は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視している。熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の名作川端康成 『眠れる美女』 | 新潮社
読んで感じたこと
こういう、いわゆる「文豪」の書く日本文学を読むのは結構久しぶりです。
「眠れる美女」の家で行われているのとは、かなり異様なことに思われますが、淡々と美しい文体で描かれています。
男性誌をコンビニなどで表紙を見かけると、年を取っても「男」としてのプライドを持っていたい、という願望がうかがえます。
「老い」、「衰え」、これは人類共通の悩みでもあります。
「男」としての欲求を失っても、なお「眠れる美女」の家に集う老人たちの生物としての意思と、脳が考える意思とは違うのではないかと思います。
身体が終盤に入っても、体はもう少し前の段階のような。
最近では実年齢と自分の感じている年齢にズレが生じているとなにかで読んだことがあります。
川端がこの作品を書いたころから、顕在化していないだけで、そういう問題が「男」たちの内面で起きていたのでしょうか。
「変態的」といってもいい設定ですが、ぎりぎりのところで踏みとどまり、それが文学にまで高められているのは川端の筆力でしょうか。
「欲望」とも「欲求」とも「衝動」とも違う、あらすじでは「腐臭」と表現されていたゆがんだ営みが冷静な筆致で描かれることによって文学になる。
海外ではこういう作品があるんでしょうか。
全編から失われてしまった時代の「雰囲気」を感じます。
あの家の秘密のおきてに突きあたったのであった 。あやしいおきてであるだけにきびしく守られねばならない 。このおきてが一度でもやぶられたら 、ありふれた娼家になってしまうのだ 。
ぼくが読んだ新潮文庫の解説は三島由紀夫。
この文章も面白い、読ませる解説になっています。
その他の短編
この本には「眠れる美女」のほかにも2編の短編が収録されています。
「片腕」
この作品は予想外すぎる展開に面食らいました。
なにが驚いたって、本当にタイトルのままだからです。
最初のページを読んで、次に行ってもよく意味がつかめず読み返してようやくわかりました。
「眠れる美女」よりもまだ人間味を感じたのが不思議です。
「散りぬるを」
殺人犯人三郎の供述をもとにしたという体裁の話。
芥川龍之介の「藪の中」のようでもあり、無邪気さの罪作りのようでもあります。
作中で書いてあることがどこまで「事実」なのか。
この短編集の川端はとんでもないことをごく普通のように書いていますね。
まとめ
恥ずかしながらこの本を読むまで、川端康成を本格的に読んだことはありませんでした。
いくつかのよく知られている作品に目を通した程度。いわば「眠れる美女」がはじめての川端康成体験になったわけです。
こういう設定を考え、小説の形にまとめるなんていったいどんな思考をしているのか気になりました。
いまの文学よりももっとトンがっているかもしれません。
江口老人の過ごした一夜ずつに少しずつ読むのもありかもしれません。
さかもとみきさんの書評
この作品を女性のさかもとさんはどう読んだのでしょうか。すごく気になる。