ブログ「坂本、脱藩中。」のさかもとみきさんと毎月コラボしている書評。
今回は藤谷治さんの『燃えよ、あんず』を取り上げます。
毎月連載のコラボ書評
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コラボ書評とは2人のブロガーが同じ本を読み、感想をお互いに書くという内容です。
ぼくはさかもとさんにいろいろ相談をしたり、Twitterで交流をしていました。話の流れで「コラボしたいね」という流れになり、お互いに本好きということもあり書評を書きあうというスタイルになりました。
面白いのは同じ本を読み合っていても、人によってこうも感想が違うのかという点がわかる点です。
特にこのコラボ書評は、男女で本の捉え方が違う点も面白い点だと思います。
- 過去のコラボ書評はこちらから。
毎月連載のコラボ書評まとめ【つぶあんとさかもとみきさんの書評】 | つぶログ

毎月連載さかもとみきさんとのコラボ書評!
今回の取り上げるのは藤谷治『燃えよ、あんず』
今回取り上げるのは藤谷治さんの『燃えよ、あんず』です。
今回の選書は私、つぶあんが担当しました。
藤谷さんは書店経営のかたわら、執筆活動を行い『船に乗れ!』などの作品で知られている作家です。
あとで触れますが、経営していた書店の名前は「フィクショネス(ficciones)」。
屋号はホルヘ・ルイス・ボルヘスの『伝奇集』に由来します。
下北沢の小さな書店・フィクショネスには、一癖も二癖もある面々が集っていた。癖の強い店主、筋金入りの「ロリータ」愛読者、大麻合法を真面目に主張する謎の男、大手企業で管理職に就く根暗な美形男性、そして、決して本を買わずに店で油を売り続ける、どこか憎めない女子・久美ちゃん。
そんな彼女に新婚間もなく不幸が訪れる。それから十数年。ある日、久美ちゃんがお店にふらりとあらわれた。同じく懐かしい顔の男を伴って――。
『燃えよ、あんず』の感想
本作の舞台は下北沢にある書店「フィクショネス」。
この小説は「フィクショネス」の店主であるオサムが執筆した小説という形になっています。
読み終わって最初に感じたのは「これはすごいものを読んでしまった…。」という感覚。
物語としては書店「フィクショネス」を中心として、店主のオサム、桃子夫婦、常連客をめぐるストーリーを展開していきます。
物語の中心となるのは、久美ちゃんという女性。
久美ちゃんは「フィクショネス」の常連客ではあるものの、本を買うことはなくイベント「文学の教室」で取り上げた本も図書館で借り、気に入ったものだけを古本屋で100円で買ったりしています。
物語は下北沢を離れていた久美ちゃんと「文学の教室」の常連だった由良が10年ぶりに「フィクショネス」を訪れたところから始まります。
久美ちゃんは由良の紹介で就職し、新宮さんという男性と出会います。
この久美ちゃんと新宮さんの出会いと恋愛が物語を動かすキーになります。
ストーリーが進行する中、ふいに飛び出す笑える一言とツッコミにクスッとしつつ、最終的には大団円を迎えるラストへのスピード感といい意味でのパワフルさに圧倒されながら読みすすめました。
登場人物たち、特に久美ちゃんと新宮さんを取り巻く状況はちょっとなものがあります。
とはいえ、後味が悪いということはまったくなく、殺人や大事件などが起きるわけではありません。
ひとつひとつの出来事を取り出すとささやかだったり、地味だったり。
でも、ちょっと人を傷つける悪意が出てきたり。
語り手の1人であるオサムが落語をする場面があるのですが、まさに落語的な世界観という感じで欠点はあるけれど懸命に生きている人物たちに共感することができました。
人生は完璧でないから美しい
読んでいるときに受ける雰囲気としては(ぜんぜん違うかもしれないけれど)、昔のクドカン(宮藤官九郎)のドラマみたいな印象を受けたりしました。
物語が終わったあとに最後の新宮さんの父親、獅子虎の人生のハイライトの部分があるのですが、ここはは圧巻でした。
「フィクショネス」や久美ちゃんのストーリーを踏まえてからでないとわからないのですが、小説の人物にハマっていた人にとってはすごく感情を揺さぶられるものがあると思います。
最近はこの本のような読み味の小説を久しく読んでいなかったので、なんだか妙に嬉しい気分になりました。
人生はでこぼこだらけで完璧ではないから美しい、そんな読後感を受けました。
あとがき
この小説はもともと「ぽんこつたち」というタイトルで連載されていたそうですが、「あ〜なるほど」といいたくなるような、ふつうなんだけれど、どこかズレていて、でも愛すべき人物たちの「人間喜劇」ともいうべき作品だと感じました。
物語の中で久美ちゃんが心打たれたというフローベールの「3つの物語」を買ってみました。
分厚い作品ですが、読む価値あり。
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さかもとみきさんの書評
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「人生という喜劇」ってこの作品を表現するのにぴったりですね!