救いのない時代の救済の物語:開高健『夏の闇』【コラボ書評】

コラボ書評開高健の『夏の闇』 書評

ブログ「坂本、脱藩中。」のさかもとみきさんと毎月コラボしている書評。

今回は藤谷治さんの『燃えよ、あんず』を取り上げます。

毎月連載のコラボ書評

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  • 前回のコラボ書評、藤谷治『燃えよ、あんず』

愛すべきぽんこつたちの物語『燃えよ、あんず』【コラボ書評】 | つぶログ書店

ああ、人生という喜劇!踊るのか、踊らされるのか「燃えよ、あんず」藤谷治 | 坂本、脱藩中。

コラボ書評とは2人のブロガーが同じ本を読み、感想をお互いに書くという内容です。

ぼくはさかもとさんにいろいろ相談をしたり、Twitterで交流をしていました。話の流れで「コラボしたいね」という流れになり、お互いに本好きということもあり書評を書きあうというスタイルになりました。

面白いのは同じ本を読み合っていても、人によってこうも感想が違うのかという点がわかる点です。

特にこのコラボ書評は、男女で本の捉え方が違う点も面白い点だと思います。

  • 過去のコラボ書評はこちらから。

毎月連載のコラボ書評まとめ【つぶあんとさかもとみきさんの書評】 | つぶログ

コラボ書評

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今回の本は開高健『夏の闇』

今回取り上げる本は開高健さんの『夏の闇』。著者自身が第二の処女作とする代表作の一つです。

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開高健さんの本は人生相談本である『風に訊け』を読んだことがありました。

これは人生相談本の中で名作とされているのをどこかで読んだからですが、この本が面白かったので小説もいつか読んでみたいなと思っていました。

今回はさかもとさんがこの本を選んでくれたのですが、本のチョイスにも個性があらわれていて面白いなと思いました。

ぼくが選ぶ本とさかもとさんが選ぶ本、それぞれの好みというか性格の違いが出ていてすごく面白いなと思いました。

『夏の闇』の感想

ヴェトナム戦争で信ずべき自己を見失った主人公は、ただひたすら眠り、貪欲に食い、繰返し性に溺れる嫌悪の日々をおくる……が、ある朝、女と別れ、ヴェトナムの戦場に回帰する。“徒労、倦怠、焦躁と殺戮”という暗く抜け道のない現代にあって、精神的混迷に灯を探し求め、絶望の淵にあえぐ現代人の《魂の地獄と救済》を描き、著者自らが第二の処女作とする純文学長編。

引用:開高健 『夏の闇』 | 新潮社

この本を読み終わって浮かんできたキーワードはずばり“ダウナー”。

前回ぼくが選んだ『燃えよ、あんず』はどちらかというと“アッパー”な雰囲気を持つ小説でした。

すべてがハッピーではないけれど、展開として祝祭的な性格を持ち気分が明るくなるような感じ。

反対にこの『夏の闇』は沈むような(ある意味でベトナム戦争がテーマなので明るくはならないのだけど・・・)、でもなぜか心地いいような感じがあるんですよね。

感じとしてはマーティン・スコセッシ監督の映画『タクシードライバー』やセルジオ・レオーネ監督の映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』見たときに似ています。

(そういえば両方の主演はロバート・デ・ニーロですね)

主人公の男は“女”と再会し、快楽に身を任せ、そして男はひたすら眠り続けます。

ベトナム戦争を取り上げたり、テーマにした小説や映画では、明るい展開になりようがないという部分は影響しているのかもしれません。

物語で重要な役割を果たす女性も“女”としか描かれず、名前が出てくることはありません。

これは開高健のマッチョイズムなのか、“女”が主人公に影響を与えることがなかったということなのか・・・。

そう、主人公はある地点をさかいにそれまでの怠惰な生活を一点、かつていたヴェトナムの戦場に戻ることを決めます。

主人公の“腹”は最初から決まっていたのかもしれません。

ダウナーな印象を受けたものの感覚は悪くありません。あらすじには“救済”を描いたと書いてありますが、終わりの見えない戦争という状況はいまの時代と似ているのかもしれません。

人はいつか自分自身と向き合う必要がある。それが救済になるというメッセージかも知れないと思いましたね。

あとがき

純文学の長編というのは久しぶりに読んだ気がします。

エンタメじゃない文学ではこういう表現もできるんですよね。こういう視点で世界を見る経験ができるのも「読書」の楽しさですね。

このダウナーな感じに身を任せてみるのも心地いいかもしれません。

文体も含めて、これぞ文学!という感じなのでぜひ時間があるときにじっくりと読んでみてください。

さかもとさんの書評はこちら

この作品をさかもとさんがどう読むか気になる!

今回紹介した『夏の闇』

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