毎月連載で書いているブログ「坂本、脱藩中。」のさかもとみきさんとのコラボ書評です。今回は古川日出男さんの『ミライミライ』を取り上げます。
オトコとオンナの本の読み方
ブログ「坂本、脱藩中。」のさかもとみきさんと毎月コラボしている書評も今回で13回目。
毎月、お互いに本を選び、書評を書くというリズムが完全に定着していて毎回楽しみなコラボです。
今回コラボ書評で取り上げるのは、古川日出男さんの『ミライミライ』です。
こちらがあらすじです。今回本を選んだのは、私つぶあんです。
第二次世界大戦後北海道はソ連に占領、鱒淵いづるを指揮官とする抗ソ組織はしぶとく闘いを続ける。やがて連邦国家インディアニッポンとなった日本で若者四人がヒップホップグループ「最新”」(サイジン)を結成。だがツアー中にMCジュンチが誘拐、犯人の要求は「日本の核武装」――歴史を撃ち抜き、音楽が火花を散らす、前人未到の長編。
ミライミライを読んで受けた印象
この作品は翻訳小説のような文体でつづられます。一例を出すと、
しかも国境線を有した内地となった。そこには陸の国境線がある。はっきりと真横に引かれている。緯の線として。
過去と現在が行き来する構成で、この本の冒頭を読んだだけで普通の本とかなり違う印象を受けるはずです。
今回のコラボ書評を書くに当たり、1度通読をして、実際に書くに当たり、何度か読み返してみました。
こうして書評を書きながらも、いまだに確信が持てないというか、消化しきれていない、そんな印象があります。
体験セヨ
ソ連に占領された北海道の話。日本は連合国に占領され、アメリカには米軍基地がある世界。
叙事詩という言葉があるけれど、本当にそんな感じで、本当に海外小説を読んでいるかのように、いろいろな人物の視点から、物語が、歴史が、現実が語られるという感じですね。
ぼくはヒップホップの熱心なリスナーではないですが、すでにある音源からビートを抜き出して、サンプリングをして、そこにラップを乗せるというイメージでこの本を捉えました。
現代の文化はさまざまなものが混然一体となったサンプリング文化だと読んだことがあります。
この小説はIF小説であり、音楽小説であり、ヒップホップ小説でもあり、ミクスチャーロックを聴いているかのような、いい意味でのごった煮感があるので、世界観になじむのに時間がかかるものの、一旦ハマり出すとそのグルーヴ感のようなものにズブズブとハマり込んでいくような状態になります。
これが妙に心地よく、この本を読んで心地いいと書いている人は見たことがないものの、それが読むというより体験する小説、と表現した理由です。
ミュージシャンがマイクを取って戦うというのは、フィジカルになるということかなとも思ったんです。ペンとノートではなくてマイクだから、これは「発語せよ」みたいなことかなと。
あり得たかもしれない、あり得ないかもしれない世界
ヒップホップのような文体、翻訳書のような文体、さまざまな書き方をミックスした文体で展開するこの本は決して読みやすい本ではないといえるかもしれません。
実際にぼくも行きつ戻りつしながら、読み進めました。何度も書いているように、実際の体験をしているような本があるが、この作品はまさにそう。
ソ連に占領された北海道、インド連邦に加わる日本、中国との対立軸など、荒唐無稽に思えるかもしれませんが、部分部分ではあってもおかしくなかったこと。
まるで昔の海外の映画に出てきた架空の日本のような感じです。日本なんだけれども日本ではない。
映画「ブレードランナー」の世界観というか。この作品はあそこまでサイバーな感じではないけれど、「ごちゃごちゃ感」という感じです。あれはロサンゼルスが舞台なんですが。
いまでも日本に米軍基地はあるし、どこにアイデンティティを置くかという問題にも繋がります。
これは歴史書なんだと思います。まずこういう歴史が、つまり実際にこういう土地や時間や国々が、膨大な文章、映像、音楽にもできるような世界が存在して、それを僕が三百数十ページに編纂していった。そういうものではないかと。
ニップノップはヒップホップを食い破って生まれる
本作のキーといえるグループ、「最新”(サイジン)」が表現している音楽ジャンルは「ニップノップ」です。
ヒップホップをベースに北海道で生まれた音楽ジャンルで、作品の中では真のストリート音楽として北海道のみならず、世界で人気を博しています。
これってイギリスで元植民地のジャマイカの音楽であるレゲエが入ってきて、パンクスたちの心を捉えたというのを元にしているのだろうか、とふと読みながら思いました。
読んでいるうちにジャンルは違いますが、イギリスのパンクロックバンド、ザ・クラッシュが頭に思い浮かんできました。
そういえば、ザ・クラッシュもレゲエにアプローチした曲がありますね。
ヒップホップという音楽について
ロック好きなので、ロックばかり聴いているぼくでもいくつかヒップホップを聴いたことがある。
個人的には音楽シーンに登場したときは尖っていても、次第に浸透して行くにつれてポップになって行くものである。
もちろん、それは悪いことではないです。
ブルースが、ゴスペルが、ロックンロールが、パンクが、そうであったように初期衝動であったり、ピュアな欲求であったり、現実がコントロールできない苛立ちであったり、そういった表現はどのジャンルでもあるものだ。
まるでヒップホップの2枚組アルバムを聴いているかのように言葉がたたみかけてくる。物語がたたみかけてくるのです。
世界では現実と虚構がミックスされて、いい意味で訳がわからなくなってきます。この本の筋のように私たちが生きている世界は複雑です。
最近は時間があるときはTwitterを眺めるときがあるけど、日々いろいろな問題が起き、対立があり、喜びがあるものだと思います。
まとめ
世界の対立軸は多様でややこしくて、難しい。
あり得たかもしれない、みらいみらい。こんなこと戯言だよ、というむかしむかし。
考え、行動せよ、そういう風に突きつけられるような読み味です。
まるで現代の叙事詩のよう。ぜひ時間をかけてゆっくり楽しんでください。
さかもとみきさんの書評
さかもとみきさんの書評はこちらから。
さかもとさんがどういう風に読んだかすごい気になる笑。
こんな北海道、あったのかも…!夢と音楽と政治の妄想未来「ミライミライ」古川 日出男 | 坂本、脱藩中。
かなり重量級の作品だったので、男女の違いって面白いですね。
今回コラボ書評で取り上げた本
古川日出男『ミライミライ』