ブログ「坂本、脱藩中。」のさかもとみきさんと毎月コラボしている書評。
今回は絲山秋子さんの『夢も見ずに眠った』を取り上げます。
毎月連載のコラボ書評
このブログでは、ブログ「坂本、脱藩中。」のさかもとみきさんと毎月コラボしている書評を書いています。
- 前回のコラボ書評、平野啓一郎『ある男』
愛には過去が必要か?:平野啓一郎『ある男』【コラボ書評】 | つぶログ書店
死んだ夫は他人だった!?実在するのに名前のない男を追う「ある男」 平野 啓一郎 | 坂本、脱藩中。
コラボ書評とは2人のブロガーが同じ本を読み、感想をお互いに書くという内容です。
ぼくはさかもとさんにいろいろ相談をしたり、Twitterで交流をしていました。話の流れで「コラボしたいね」という流れになり、お互いに本好きということもあり書評を書きあうというスタイルになりました。
面白いのは同じ本を読み合っていても、人によってこうも感想が違うのかという点がわかる点です。
特にこのコラボ書評は、男女で本の捉え方が違う点も面白い点だと思います。
- 過去のコラボ書評はこちらから。
毎月連載のコラボ書評まとめ【つぶあんとさかもとみきさんの書評】 | つぶログ

毎月連載さかもとみきさんとのコラボ書評!
今回の本は絲山秋子著『夢も見ずに眠った』
今回の本はさかもとさんのチョイス。
テーマ本は絲山秋子さんの新刊『夢も見ずに眠った』です。
あらすじはこちら。
夫の高之を熊谷に残し、札幌へ単身赴任を決めた沙和子。しかし、久々に一緒に過ごそうと落ち合った大津で、再会した夫は鬱の兆候を示していた。高之を心配し治療に専念するよう諭す沙和子だったが、別れて暮らすふたりは次第にすれ違っていき…。ともに歩いた岡山や琵琶湖、お台場や佃島の風景と、かつて高之が訪れた行田や盛岡、遠野の肌合い。そして物語は函館、青梅、横浜、奥出雲へ―土地の「物語」に導かれたふたりの人生を描く傑作長編。
絲山秋子さんはかなり前に『逃亡くそたわけ』を読んだことがあります。
『夢も見ずに眠った』の感想
最初は岡山駅から物語が始まり、笠岡や山陽本線、福山など自分の身近な地名やものが出てきてびっくりしました。
岡山〜鳥取を結ぶ伯備線も。
特に笠岡は小さい頃に行ったカブトガニ博物館に高之が行くことになって小説の中で自分の知っている場所が舞台となって出てくるというのは不思議な感覚でした。
『夢も見ずに眠った。』専用グーグルマップhttps://t.co/2KfR3V9OF5
物語の舞台となった場所を地図でご覧いただけます。
取材で立ち寄ったりごはんを食べたお店も入れました。本とともにお楽しみ下さいませ。— 絲山秋子 (@akikoitoyama) 2019年2月8日

作品に登場する岡山駅山陽本線のホーム
岡山〜広島の境あたり、特に笠岡や福山などの地名が地元出身の作家以外の作品で出てくるのは相当久しぶりだなと言う作品の感想とはまた別の感覚が浮かんできました。
この作品は雑誌「文藝」に連載されたものです。日本各地を舞台にしながらそれぞれの土地土地の描写を交え、登場人物の心情を描くという形で物語が展開していきます。
この連載を読むのはとても楽しみなことだったのではないかと想像できます。
単行本ではじめてこの作品を読みましたが、あっという間にスルスルと読み進めることができました。

琵琶湖も作品に出ます。
感想
本作のメインとなる登場人物は布施高之と妻の沙和子。
沙和子は義母とも仲良く、家庭はうまくいっていました。しかし、沙和子の北海道への転勤により少しずつ関係に変化が起きてきます。(高之は埼玉県熊谷市に住んでいます)
この本を読んでいて、理由はわからないけれど作品の途中まではどこか寂しさが漂う感じを受けました。
離れて暮らす男女を主人公にし、そのすれ違いがひとつのテーマであるならば、それはあたっているのかもしれません。
顔を見る、面と向かって話をするということが思った以上に大切だということかもしれませんね。
こんなに怒れる人はほかにいないよ。例えばお腹を壊したり、生理だったり、そういうことも含めてつき合える男の人というのは滅多に現れないんだよ、と沙和子は思う。
この人でなければ、ということがあっても物理的な距離が離れてしまうと心も離れてしまうような感覚になってしまいます。
高之はどちらかといえば、おおらかなタイプですが、逆に沙和子はバリバリと仕事をこなすキャリアタイプ。
作品の中でも触れられていますが、これまでの日本での認識をもとにすれば、“逆”の人物設定がなっていたはずです。
この作品では、一緒に住まずに、子どももいない。その中でそれでも“夫婦”であり続ける意味とは、という投げかけをしているように思います。
ぼくたちは家族、人生、暮らし、そういうものの意味が変わりつつある時代に生きているのかもしれません。
人間にはここに暮らしがあり、暮らしという白い紙箱の中には和菓子のように柔らかく傷つきやすい心が備わっていたのだった。誰もが二度と思い出さない過去を持ち、決して実現しない可能性を持っていた。それらもまた、反故にされるかもしれないが 一応の約束として存在しているのだった。
あとがき
この作品を読み終わったあとは、なんだかしんみりした感じ。でも悪い感じではありません。
明るい気持ちもあり、こういう人生もいいかな、と思いますね。
2人が出した結末をぜひ読んでみてください。
さかもとみきさんの書評
好きな作家さんということもあり、響きます!ぜひさかもとさんの書評をお読みください!