ブログ「坂本、脱藩中。」のさかもとみきさんと書いているコラボ書評です。
今回は直木賞作家の桜木紫乃さんの『ふたりぐらし』を取り上げます。
オトコとオンナの本の読ミカタ
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1年以上続くコラボ書評で、新しい本に出会える月1回のコラボです。
前回の書評はこちら。
- つぶあん
【コラボ書評】正しくも完璧ではない自分のままで『夏の裁断』【島本理生】
- さかもとみきさん
空いた穴を埋めるのは男?トラウマの克服?親子関係?「夏の裁断」島本理生 | 坂本、脱藩中。
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今回の本は桜木紫乃『ふたりぐらし』
今回のコラボ書評で取り上げる本は桜木紫乃さんの『ふたりぐらし』です。
この本を知ったのは、芥川賞・直木賞に対して独自の新井賞を発表していることで知られる書店員の新井見枝香さんのこのツイートから。
短歌みたいに、1編を2回ずつ繰り返して読むとすごくいい 3回繰り返してもいいくらいだ #桜木紫乃 #ふたりぐらし #新井賞 受賞後第一弾 pic.twitter.com/E2RNqFRaJx
調べてみると、帯に一気読み禁止!というコピーが書いてあり、著者”最幸”傑作とのコピーも。
これは気になる!ということで、今回はぼくが本を選ぶ担当だったのでこの本を選びました。
桜木紫乃さんは北海道釧路市出身の作家で、『ホテルローヤル』で直木賞を受賞されたのも記憶に新しいところ。
作品の舞台としてはほとんどが出身の北海道になっていて、今回の『ふたりぐらし』も同様です。
『ふたりぐらし』の内容
この本は10編の短編からなる短編集です。
劇的な事件がおきるわけではなく、一つひとつの短編の長さも30枚ほど。
いつか三十枚できちんと成立する短編を書く、というのが目標になったんです。「こおろぎ」に始まって「幸福論」で終わる十編は、ひとつひとつ独立した短編として読めるようにと思いながら書きました。
本当にごく普通の夫婦の日常を綴った物語です。主人公となるのは看護師の紗弓と映写技師の信好。
あらすじはこちら。
夢を追いつづけている元映写技師の男。母親との確執を解消できないままの看護師。一緒にくらすと決めたあの日から、少しずつ幸せに近づいていく。そう信じながら、ふたりは夫婦になった。貧乏なんて、気にしない、と言えれば――。桜木史上〈最幸〉傑作。この幸福のかたちにふれたとき、涙を流すことすらあなたは忘れるだろう。
収録されている短編は、
- こおろぎ
- 家族旅行
- 映画のひと
- ごめん、好き
- つくろい
- 男と女
- ひみつ
- 休日前夜
- 理想のひと
- 幸福論
です。
『ふたりぐらし』の感想
桜木紫乃さんの作品を読むには、直木賞受賞作の『ホテルローヤル』以来。
読んでみてのテイストとしては純文学のフレーバーを感じます。
一編一編が短く、劇的な事件が起きません。心がざわつくっていう感じでもなく、本当にごく普通の夫婦の日常を綴った物語です。
勝手なイメージだけど、単館系の映画館で流れるような日本映画のようなイメージを受けました。
小津安二郎の作品のような、丹念に描きつつもどこか遠い。あるいは初期の北野武作品の映像で、ストーリーのヒリヒリ感をなくした感じか。
一気読み禁止というのはまさにそういう部分で、世界観に浸る感じ。
たしかに一気に読んだら細かいニュアンスやディテールが消えてしまう感じですね。
この世界は自分だけのものにしておきたい。すごくパーソナルな物語です。
この一冊、このふたりにはきちんと時間が流れている、と感じました。二年と少しかけて、ゆっくりと書き進めることができたのも、良かったのだと思います。一本につき三か月という時間をもらうことによって、毎回視点人物のふたり(元映写技師の信好と看護師の紗弓)とほどよく離れられたんですね。引用:桜木紫乃 『ふたりぐらし』 | 新潮社
好きな短編は「つくろい」です。亡くなった母が住んでいた実家の処分にまつわる一編。
これだけでも独立して楽しめるようになっていますが、最初から通して読むとより心に訴えるものがあります。
あとは「家族旅行」ですね。
夫婦に関する物語、幸せに関する物語なんだけど、人生を過ごしていく”苦味”みたいなものもきちんと描かれていて、通り一遍のストーリーにはなっていません。
その”苦味”が絶妙なアクセントになって、より夫婦の物語が際立つという構造になっています。
人はどうやって夫婦になっていくのだろう
この年にして独身のぼくにとって”夫婦”という問題は永遠の謎みないな感じがあります。
同級生も結婚しているし、職場でも同年代以上で独身は少ないです。
「結婚しないの?」とか「いい相手はいないの?」と聞かれることも。
話題がないという面もあるのでしょうが、メンタルの弱いぼくはそういうことで心がチクチク傷んだり。
どれだけ心が弱んだよ、というツッコミを自分でもしています。
同世代の友達の子どもももう大きいし、彼女もいない、子どももいない自分の人生っていうのはなんだろうかと考えることもあります。
人はどうやって夫婦になっていくのでしょう?
少しずつつむぐように夫婦になるのでしょうか。それとも結婚したら夫婦でしょうか。
この本を読んでの感想としてはずれているのかもしれませんが、寄る辺もなくただように生きている身としては割と切実に考えたりします。
いつかこの問題に結論を出すことができるのでしょうか。
あとがき
男性が、女性が、という言い方はあまり好きではありませんが、この作品にただよう雰囲気の作品を書く男性作家はあまりいないのでは?
パートナーがいる人は相手の感想を聞いてみるのもいいかも。
じっくり味わうように、少しずつ読んでみてください。
おすすめです。
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