月一回連載しているコラボ書評シリーズです。今回はヒキタクニオさんの「人殺しパラダイス」を取り上げます。
人殺しはどこにいる?
月イチで連載しているコラボ書評シリーズ「オトコとオンナのホンノ読ミカタ」。
ブログ坂本、脱藩中。のさかもとみきさんと同じ本を読み合って書評を書くシリーズです。
今回取り上げるのはこちら。
読み終わっての第一印象は?
読み終わって最初に思い浮かんだのは落語の死神という話。
落語『死神』あらすじ・解説~初心者でも楽しめる落語~ | 冷静と情熱のアイダ
この本は「人を殺すということ」をテーマにした短編集です。
落語の話はCDなり、YouTubeなりで楽しんでもらいたいのですが、落語の方は人に死、命に関するお話。
なんだか共通するのはいつの間にか人の心に巣くっている感情を主題にしているのではないかと感じたのです。
この短編集もオチがあるのか、ないのか、不思議な感覚。
読者を面白がらせようという意図を感じましたね。
それは落語的構造なのかもしれません。
人の不幸は・・・?
「人殺しパラダイス」では思わず笑ってしまうような作品もあれば、想像を超えるような作品もあります。
- 「赤い大きなアメリカ女」
- 「月光」
- 「畜生」
- 「小岩さんの秘密」
- 「人殺しパラダイス」
私は「小岩さんの秘密」が好きかな。
このどうしようもなさ、情けなさはなかなか効きますよ。
まさに落語の世界。いや、もっと下世話かもしれません。
「畜生」の世界観もいい。
いざ、同じ状況になったとき自分がどういう判断をするのか、耐えられるのか、その保証はどこにもないな、と感じましたね。
人の不幸はなんとやらと申しますが、日常と非日常はまさに表裏一体。
笑っていたり、バカにしていたり、目を背けても、いつ自分がそっちの側に転ぶかわからない怖さがあります。
超常的な話だって出てきますが、どうでしょう。
これってヒキタさんが人の殺意を形にするために配置した装置なのかもしれません。
人の命ってなんだろう?
多くの人にとって殺人なんて縁遠いものでしょう。
しかし、考えてみれば「死」は驚くほど日常にある。
人って本質的にはいつ死ぬかわからないし、身近な人が亡くなることもあるでしょう。
ニュースで人が亡くなった報道に接することもあるかもしれません。
この本を読み終わって考えたのは人の死って意外と身近にあって、その近くに「殺意」ってのもあるってことを読者に伝えるために5つの短編があるのかもしれません。
それってすごい怖いこと。
「殺意」なんて持たずに一生を終えられるならばどんなにいいことかと思いますが、隣では死神がニタニタと笑っている、なんてこともあるかもしれません。
誰でもドキッとする瞬間がある本だと思います。
かつ面白い。
あとがき
誰しもが黒い感情を持ったことはあるはず。
この本を読んで自分のことだ!と思わないまでも、自分の身に降りかかってきてもおかしくない、そう思ってしまう瞬間があるかもしれません。
その時はあなたの心に「死神」が居座っているのかもしれません。
人の命はろうそくみたいって言いますからね。
「ほ〜ら、消えた。」
おあとがよろしいようで。